1985年 東映
カラー/アメリカン・ビスタ/130分
『の・ようなもの』(1981)や『家族ゲーム』(1983)などにより新世代の感性が注目され、一線に躍り出た直後の森田芳光監督が、松田優作とともに夏目漱石の同名小説の映画化に挑んだ作品。「明治もの」未経験の森田のために、プロデューサーの黒澤満は要所に経験豊かなスタッフを起用。ここで出会った美術の今村力や、音楽の梅林茂などは、その後も森田組の主要なスタッフとなる。原作の精神を忠実に写し取るため、セリフは原作を尊重し、現代的な言い回しにせず可能な限りそのまま用いている。その一方で、時代考証よりも森田のイメージの中の明治時代が追求されており、主人公の回想を表す幻想的な映像では人物を静止させアルバムのようにみせる実験的な演出も行っている。また、衣装デザインはコマーシャル等でスタイリストとして第一線で活躍していた北村道子が担当し、明治のファッションをアートとして表現。本作は第59回キネマ旬報ベストテン第一位など、この年の映画賞を総なめにした。