1953年 新東宝
白黒/スタンダード/モノラル/97分
戦争から帰還した礼吉(森)は、女性たちが米兵に送る恋文の代筆業をしながら、かつて想いを寄せた道子(久我)の行方を追うが…。1924年の松竹入社後、スターとして数々の名作を生み出してきた田中絹代による記念すべき監督デビュー作。戦後、年齢による役の狭まりを感じていたが、1949年の訪米時の見聞に触発された田中は、「日頃考えていることを全体的に表現してみたい、それにはやはり監督にならなければ駄目だ」と監督になることを目指す。成瀬巳喜男の『あにいもうと』(1953)の現場で2ヶ月の助監督経験を積んで本作に臨み、映画『初姿』(1936)を監督した坂根田鶴子以来となる、物語映画の女性監督となった。戦後の厳しい現実のなかで生きる道子たち女性の姿以上に、礼吉に焦点が当てられ、いまだ良き日々の思い出と戦前の感性を捨て去ることのできない姿が、悲愴感が漂うまでに克明に描かれている。入江たか子らスターたちのカメオ出演も見どころ。