1941年 松竹(大船)
白黒/スタンダード/モノラル/70分
井伏鱒二の短篇を映画化。山梨県下部温泉を舞台に、若いふたりの出会いを描く。普段は東京で愛人として囲われた生活を送る惠美(田中)は、自分が湯船に落とした簪で傷病帰還兵・納村(笠)に足のけがをさせてしまう。惠美は納村の歩行練習を手伝いながら、温泉に逗留することに。納村をはじめ、口うるさい先生、妻の意見に頼りきりの若旦那、おじいちゃんと一緒にきた夏休みの小学生兄弟など、個性的な宿泊客たちとの温かい交流のなかで、惠美は自らの人生を見つめなおす。温泉地ののんびりとした空気を見事に表現しつつ、日中戦争勃発後の情勢や、男性に囲われて生きる女性の置かれた立場など厳しい現実も描きこみ、情緒と現実、親密さと孤独といった正反対の情感が見事に共存する清水宏の代表作の一本。田中絹代の繊細な演技が作品により一層の深みを与えている。