1955年 東宝
白黒/スタンダード/モノラル/123分
戦中から戦後まもなくスランプ状態にあった成瀬監督は、林芙美子原作の『めし』(1951)を映画化して再起のきっかけとした。その後、同原作者の『稲妻』(1952)、『妻』(1953)、『晩菊』(1954)や室生犀星の『あにいもうと』(1953)、川端康成の『山の音』(1954)の映画化に成功し、〈文芸映画〉〈女性映画〉の第一人者と言われるようになった。この作品は、林文学の最晩年の長篇小説を映画化したものであり、戦時中、勤務先の仏印で激しい恋に陥った一組の男女が、戦後の荒廃した日本でその不倫関係を断ち切れない様子を描いたものである。あきらめても裏切られても離れられない二人のやるせなさは、なにかにすがりつかずには生きていけない人間の業の深さを描いた成瀬の代表作といえよう。微妙な心の揺れを表現した高峰秀子と森雅之の演技は敬服すべきものがあり、小津安二郎をして「オレにできないシャシンは溝口の『祇園の姉妹』と成瀬の『浮雲』だ」と言わしめた。「キネマ旬報」ベストテン第1位。