1963年 東映(東京)
白黒/シネマスコープ/モノラル/110分
自ら「珍顔」を名乗り、戦後の落語界で爆発的な人気を誇った風変わりな落語家、三遊亭歌笑(1917~50)の短い人生を描いた東映作品。歌笑を演じた渥美清にとって、この映画は『拝啓天皇陛下様』(1963、野村芳太郎監督)やアフリカを舞台にした『ブワナ・トシの歌』(1965、羽仁進監督)と並んで「寅さん」以前の代表作と言えるだろう。監督の沢島忠は東映の中でも新しい世代に属し、中村錦之助(後に萬屋錦之介)主演の時代劇「一心太助」シリーズ(1958~63)など、フットワークの軽い演出で知られる。実在の歌笑はナンセンスな笑いを得意としたことで知られたが、沢島監督はあえてこの落語家の生涯を、滑稽な笑いばかりでなく、夫婦愛を軸にそこはかとない哀しみを込めて描いている。やがて名作『飢餓海峡』(1965、内田吐夢監督)を執筆することになる脚本家鈴木尚之や、数々の黒澤明作品に音楽を提供した作曲家佐藤勝など、スタッフ陣の豪華さでも注目に値するだろう。