1947年 松竹(大船)
白黒/スタンダード
モノラル(濃淡型)/89分
今や家屋敷を人手に渡すところまで落ちぶれた旧華族の名門、安城家。せめて終焉だけは華やかに迎えようと舞踏会が催されたが、そこに闇金融の社長や、かつて当家のお抱え運転手だった成金の運送業者らが現われ、当主の苦悩は極限に達することとなる…。旧体制の崩壊と新興勢力の台頭という、敗戦後の日本の世相を巧みに織り込んだ作品だが、滅び行く華族とその周辺の人々という人物設定には、たしかにチェーホフの「桜の園」を思わせるところがある。もっとも監督の吉村公三郎によれば、実際にこれに類したダンスパーティーが開かれたことがあり、そこから作品のアイデアを得たということらしい。脚本の新藤兼人は修業時代、溝口健二の下で「近代劇全集」と格闘した経験があり、この堅牢に組み立てられたドラマにもその成果の一端がうかがわれる。「キネマ旬報」ベストテン第1位。