1968年 東映(東京)
カラ-/シネマスコープ
モノラル/109分
尾崎士郎の名作として知られる「人生劇場」のうち、特に「残侠篇」に焦点を絞って、巨匠内田吐夢監督が演出した作品である。青春の悩み、男女の愛憎、男の侠気、巡り会いなどを描いたこの小説は、きわめて映画的な題材であり、これまでに幾度も映画化されている。内田自身もすでに1936年に『人生劇場・青春篇』を発表、評価を得て、その年の「キネマ旬報」ベストテン第2位を獲得している。題材としては2回目の挑戦であったが、中心となるのは青成瓢吉や彼をとり囲む文学の世界の人間たちではなく、飛車角や宮川、吉良常といった侠客たち、おとよ、お袖といった底辺を生きる女たちである。本作の製作された時期、「任侠映画」と呼ばれる一連の作品群が量産され、大衆的な人気を集めており、この作品もその一本として企画されたものである。とはいえ、個々の演出は力感と格調にあふれており、ラストシーンに立ちのぼる霧などに付加されたイメージは内田作品以外の何ものでもない。今からふりかえれば、鶴田浩二、若山富三郎、藤純子、高倉健などこのジャンルにおいて一時代を画した俳優たちが、そろって出演している点も意義深い。「キネマ旬報」ベストテン第9位。