1950年 新東宝
白黒/スタンダード/モノラル/110分
肉体派文学を提唱し、一世を風靡した田村泰次郎による人気小説「春婦伝」を、監督デビュー3作目の谷口千吉が映画化した戦後反戦映画の代表作。敗戦間近の中国戦線で激しい恋に落ちた上等兵の三上(池部良)と慰問団の歌手・春美(山口淑子)は、敵の捕虜となって送り還されてくる。二人を迎えたのは数々の汚名と上官の嫉妬。軍曹の助けを借り、部隊からの脱走を試みる二人に、残酷な結末が待ち受けていた。谷口と黒澤明が共同で執筆した初稿シナリオは占領軍の検閲官により何度も書き直しを命じられ、難産のうえに完成を見た作品であったが、満洲映画協会のスター「李香蘭」として活躍していた山口をはじめ、中国で捕虜になった谷口、中国戦線に従軍していた池部、田村と、外地での体験を持つスタッフ・キャストの結集により、日本軍の非人道的な階級制度を激しく糾弾する野心作となった。「キネマ旬報」ベストテン第3位。翌年のカンヌ映画祭へ日本からの正式作品として出品されるとともに、香港および東南アジア諸国に輸出された戦後初の日本映画である。