1956年 大映(京都)
カラー/スタンダード/モノラル/104分
吉村公三郎監督はすでに戦前の名作『暖流』(1939)で、従来の日本映画にはほとんど登場しなかったタイプの、主体的で理知的なヒロインを描いているが、山本富士子が演じる舟木きわも、その延長線上に位置する存在といえるだろう。舞台は伝統的な京染めの世界である。カメラマンの宮川一夫が、当時の京都の景色を美しくとらえており、山本の魅力を引き出すために色彩をグレーに絞った効果も発揮されている。愛する男の妻が病死、その死を待っていたかのような自分が許せない主人公。そして自ら選んだ別れがくる。その一種決然とした生き方は、彼女が旧い世界の住人であることを感じさせない「誇り高き女」であり、山本富士子は本作を契機にトップ・スターの道を歩み始めた。なお、この当時は日本映画の色彩化への過渡期にあたり、本作は吉村監督にとっても初めてのカラー作品、夜汽車の漆黒の窓を流れていく赤いネオンサインなどに見られるように随所に色彩の工夫を見せている。「キネマ旬報」ベストテン第2位。