1969年 表現社=ATG
白黒/スタンダード/モノラル/103分
近松門左衛門の有名な人形浄瑠璃を映画化した、松竹出身の篠田正浩監督の代表作。篠田監督は学生時代より日本の古典芸能の研究を志していたが、この作品では、浄瑠璃の伝統性と20世紀芸術である映画との創造的な葛藤が結実している。その「新しい解釈」を示しているのが、例えば黒子の出現であり、監督夫人でもある岩下志麻の二役(遊女の小春、妻のおさん)であろう。中村吉右衛門演じる治兵衛が妻を捨てて遊女との情死行に至るまで、愛の情念が狂おしく燃える様を描くこの物語を脚本化するにあたり、監督は詩人・作家の富岡多恵子と作曲家武満徹の協力を仰いでいる。成島東一郎による撮影が、映画の空間に立体性を与えているのも見逃せない。アート・ シアター・ギルド(ATG)との提携による低予算映画であったが、「キネマ旬報」ベストテンの第1位、監督賞、さらに女優賞も受賞している。