1955年 松竹(大船)
白黒/スタンダード/モノラル/92分
原作は、明治の歌壇で正岡子規に師事した著名な歌人、伊藤左千夫の小説「野菊の墓」。数十年ぶりに故郷を訪れた老人の追想が、信州の美しい自然を背景に回想形式で描かれる。旧家に育った少年と、2歳年上のいとこの少女との淡い恋愛が、古い道徳観に縛られる大人たちによってとがめられ、二人は離ればなれにされてしまう…。その思い出を回想する場面で、木下監督は、スタンダード・サイズの画面を白地の楕円形で囲むという大胆な表現形式を採用し、シネマスコープならぬ「たまごスコープ」と称されて話題となった。この作品では、木下の叙情性がストレートに表現されているとともに、詠嘆的美しさとしての完成度が感じられるものとなっている。主人公に起用された有田紀子と田中晋二は無名の新人で、演出意図に沿った初々しさを充分に発揮している。「キネマ旬報」ベストテン第3位。