1956年 東宝
白黒/スタンダード/モノラル/116分
隅田川畔の花柳界・柳橋を舞台に、置屋の女中として雇われた女の眼を通して、零落する花街の姿を描いた幸田文の同名小説を、田中澄江、井出俊郎による脚色により成瀬巳喜男が映画化。前年『浮雲』にてベストワン監督となった成瀬が、当代を彩る女優陣の火花散る競演を得て、芸者として生きるさだめを抱えた女たちのけなげさやエゴを存分に引き出し、代表作の一つとした。置屋の女将を務めながら男への未練を断ち切れない山田五十鈴演じるつた奴に、彼女を芸者として鍛え上げた地元有力者の女将お浜が絡む場面は、原作にはあまり描かれていないが、成瀬に請われ18年ぶりの銀幕復帰となった栗島すみ子による、やさしさと冷徹さを兼ね備えた存在感により、スリリングな緊張感をもたらしている。また、つた奴の娘・勝代を演じた高峰秀子、老齢にかかった芸者のアクを見せた杉村春子とともに、映画全体の距離感を作り出した女中役・梨花(お春)の田中絹代の演技も見逃せない。女優たちの艶とケレン味が、座敷の場面を一つも描かずして、セットと実景を見事に結合させた空間構成のなかから引き出され、現実の変化とともに確実に失われつつある時代への郷愁を、艶やかなモノクロームの画面に見事に定着させている。「キネマ旬報」ベストテン第8位。