1950年 大映(京都)白黒/スタンダード
ドルビーデジタル/88分
黒澤は本作について次のように述懐している。「この作品の根本といえば、要するに、無声映画に帰ってみようと思ったことですね。……トーキーになって失われた映画の美しさをもう一度見つけようという気持ちだった。……映画ももう一度単純化しなければならないのじゃないか、というのがあの試みだった」。森の中でおきた殺人事件をめぐって、8人だけの登場人物で演じられる不条理劇。芥川龍之介の「藪の中」を、脚本家を志望していた橋本忍が脚色、黒澤の助言で同じ作家の「羅生門」が加えられた。絶対真理の不在と人間不信の主題は戦後間もない欧米で評価され、翌年のヴェネチア国際映画祭でグランプリ、そして米・アカデミー最優秀外国語映画賞を受賞した。1949年に湯川秀樹博士がノーベル賞を受賞し、敗戦後の日本に朗報をもたらしたが、黒澤のそれも日本映画の芸術水準の高さを海外に知らしめただけではなく、わが国の国際理解に大きく貢献した。「キネマ旬報」ベストテン第5位。