1946年 東宝
白黒/スタンダード/モノラル/110分
黒澤明監督の戦後第一作。モデルとなったのは京都大学の滝川事件(1933)とゾルゲ事件(1941)だが、後年の男性中心の黒澤作品に比べるとやや異質な感じを与えるのは、女性が主人公である点であろう。ファシズムの圧力に屈し野に下った大学教授の娘で、戦時下のさまざまな苦境にも屈することなく生きていく堂々たるヒロインとして、原節子が後の小津安二郎作品とは違った魅力を発揮している。脚本の久板栄二郎はプロレタリア演劇の中心的存在として活躍していた劇作家で、この年木恵介監督も、久板の脚本により『大曾根家の朝』という佳作を発表しているが、彼と組んだところに当時の黒澤監督の姿勢が表われている。ともあれ、戦後の「新しい時代」の高揚の中で制作されたことが良くわかる作品である。本作は、1946年3月から始まった東宝争議の第二次争議中に、日活系の劇場を使って封切られた。「キネマ旬報」ベストテン第2位。