1962年 松竹(大船)
カラー/スタンダード/モノラル/113分
この作品の構想を練っていた1962年2月、生涯独身であった小津は生活を共にしていた最愛の母を失った。その数日前、小津は映画人で初めての芸術院会員となり、喜びを分かち合ったばかりであった。戦後、小津の復活を知らしめた『晩春』(1949、笠智衆・原節子主演)以来、初老の父と独身の娘の関係がこの作品でも踏襲されている。身の周りの世話を娘に頼り、娘の行く末を考えもせずにいた父が、旧制中学時代の恩師と中年の娘がしがないラーメン屋を営んでいる光景を目にし、人生の孤独を感じつつ娘を嫁がせるのだった。恩師の娘を演じた杉村春子は、演技指導の厳しかった小津ですら何も注文をつけなかったといわれているが、無言の立ち居振る舞いはこの作品のテーマを見事に表現している。これまでになく人生の無惨さを描いたこの作品の翌年、小津は端正な作風そのままに、還暦を迎えた12月12日、亡き母のもとへ旅立った。「キネマ旬報」ベストテン第8位。