1953年 松竹(大船)
白黒/スタンダード/モノラル/136分
この作品を作るにあたって、小津監督は「親と子の成長を通じて、日本の家族制度がどう崩壊するか描きたかった」と語っている。戦後から8年しか経ていない当時、まだ〈高度経済成長〉や〈核家族〉といった表現がなされていない頃の作品である。尾道に住む老夫婦が、医者の長男や美容師の長女が住む東京に出かける。幸福そうな家庭も経済的には苦しそうである。東京で暮らす昔の同僚も親子関係に不満をもらす。子供たちが計画した熱海への旅行も疲れただけ、唯一の救いは戦地で行方不明となった次男の妻・紀子との一時であった。家族の変化と喪失が大きなテーマになってはいるものの、終盤にかけて原節子演じる紀子と香川京子演じる京子の紐帯の萌芽が描かれ、未来に向けて開かれた作品になっている点も見逃せない。「キネマ旬報」ベストテン第2位。1957年のロンドン映画祭での上映、翌年の英国映画協会(BFI)サザーランド賞受賞が、世界の小津ブームのきっかけとなった。